ここ5年の間にスイング解析器とギアが目覚ましい進化を遂げ、300ヤードヒッターが急激に増加。「飛ばすなら曲がる」時代から「飛んで曲がらない」時代へ突入した。そんな世界のトッププロたちのスイングを、プロコーチの井上透氏が解説する。
55対45の左重心で構え、頭を動かさずに捻転する
やや左足体重で構えておいて、ほとんど頭の位置を変えずにバックスイングしていく
1998年生まれの韓国期待の星、イム・ソンジェは2018年からは米下部ツアーに参戦。1月の開幕戦でいきなり優勝すると、8月に2勝目を挙げ、下部ツアー賞金王で米ツアー昇格を決めた。2019シーズンは世界最高峰の舞台でトップ10に7度入り、ルーキー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。そして2020年は「ザ・ホンダ・クラシック」で待望のツアー初優勝。順調に階段を上り続ける22歳のスイングを、最先端の理論に精通しているプロコーチの井上透氏が解説する。
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ソンジェは構えているときのバランスが特徴的です。55対45くらいの左重心で構えています。バックスイングではストレートな軸感覚を大切にしながら、頭の位置を動かさずに捻転していく。ほとんど体重移動せずに左軸でスイングする「スタック&チルト」のようなイメージにも見えます。ただし、ティアップは高いので、ダウンブローで打とうとしているわけではなさそうです。
切り返しで深いタメを作り、インパクト直前から一気に解放
切り返しからダウンスイングに入ったときに深いタメを作り、手元がベルトのラインまで下りてきたら一気に解放。ヘッドが走ってフォローでは右手が左手の上に乗る
ダウンスイング初期には手首の深いタメがあって、手元がベルトのラインまで下りてきたときに急激なリリース動作が入る。このことから「タメと解放」を上手に扱っていることが分かります。トミー・フリートウッドが体の回転を止めずにクラブを引っ張り続けるプレーヤーだとすると、ソンジェはクラブワークを使うプレーヤー。だからフォロースルーでは右手が左手の上に乗っかってくるのです。
インパクトで目線を右に残してヘッドを走らせる
ソンジェのキャップの“つば”は残っているのに対して、フリートウッドは目標方向に回っていることがわかる
キャップの“つば”に注目すると、バックスイングで左腕が地面と平行になるまでは頭の向きがまったく変わりませんが、それ以降は捻転量が足りないので、顔の向きが少し右に回ります。そしてフォロースルーで手元が腰の高さにくるまで、そのキャップの向きを変えていません。それに対してフリートウッドは頭も一緒に回転していく。インパクトで頭の向きを変えずに目線を残しておくと、クラブヘッドは走るんです。この辺りがソンジェのクラブワークを生み出す1つの要因になっています。
個性が少ないきれいなスイング作りという点は、韓国人選手の特徴とも言えます。それに2018年に米下部ツアーの賞金王を獲っていますから、実力は申し分ありません。言ってみれば松山英樹クラスです。ソンジェをはじめ、韓国人選手は海外で勝負する選手が多いですし、USLPGA(米女子ツアー)だけでなく、USPGAツアーでも韓国の選手がもっと増えていくと思います。
■解説・井上透
1973年生まれ。神奈川県出身。1997年からツアープロコーチとしてのキャリアをスタート。中嶋常幸、佐藤信人、米山剛などのコーチを務めた。現在は成田美寿々や穴井詩らを指導している。社会人入試で入学した早稲田大学大学院では「韓国におけるプロゴルファーの強化・育成に関する研究」を発表した。現在は東京大学ゴルフ部監督としての顔も持つ。