が、フェアウエイを捉えていながら8Iによる第2打で「あんなに飛んでしまうとは思わなかった……」と、あっさりグリーンを外すところが今季のタイガーの象徴。グリーン外からパターを握った第3打は、ラインに乗り、カップに向かっていったけれど、カップのぎりぎり手前で止まってしまい、タイガーもファンも、みな頭を抱えて悔しがる。それもまた今季のタイガーの象徴だった。
ローズ、タイガー、ゲーリー・ウッドランド……。スコットを捉えるチャンスに到達した選手は居たというのに、あと一歩のチャンスをモノにできた者は誰一人おらず、結局、スコットが逃げ切り優勝。サドンデス・プレーオフに備え、すでに練習場に身を置いていたスコットは屋外モニターで自らの勝利が決まったことを確認し、キャディのスティーブ・ウイリアムスと抱き合って喜んだ。
思えば、昨年の全英オープンでも、それ以前のメジャーやビッグ大会でも、スコットはしばしば、あと一歩のチャンスを逃し、勝利を逃してきた。だが、今年、マスターズを制し、ついにメジャータイトルを獲得したら、スコットは最後のチャンスを「逃す人」から「生かす人」へと、すっかり変貌。そして、いつしか他選手たちを「ラストチャンスを逃す人」へと変えている。
それほど大きな変貌、変身を遂げているというのに、スコット自信は「いやあ、信じられない。いいプレーができたとは思っていたけど、まさかここでこうして勝てるなんてね」と屈託のない笑顔。それをスコットの魔法と呼ぶとしたら、タイガーもスコットの魔法にやられ、最終ホールでラストチャンスを逃し、肩を落としたと言えるだろう。
その年にメジャーを制したか、否か、そこからどれほど自信を得たか、否か。その自信に裏打ちされたプレーができるか、否か。その有無が、今日の最終日に猛追をかけた3人のメジャーチャンプとタイガーとの差。そして、最後に笑ったスコットと最後に唇を噛んだタイガーとの違いだった。