コツコツ地道に積み上げるのではなく、すべてが噛み合って「はまる」という希少なチャンスを狙い撃ちして優勝を目指す。それが現在の石川の希望だが、そうなるとタイガー同様、勝利のチャンスからほど遠い位置でプレーする際のモチベーションは下がりがちになるだろう。実際、唯一予選を通過したノーザントラストの最終日も「予選を通っても、この順位なので経験値はあんまり……」と渋い顔だった。
何の因果か、その石川と予選2日間を共に回ったマイケル・トンプソンが堂々の初優勝を遂げた。ツアー3年目のトンプソンはタイガーや石川とは対照的なコツコツ型だ。「慌てず熱くならず、じっと耐える。それが僕という人間なんだ」。首位に立っても、ムービングデーの3日目であっても、決して無理に攻めず、「ダブルボギーだけは叩かない賢明なプレーを心掛けた。最終日も同じことをやるのみ」。
サンデーアフタヌーン。2位と1打差で迎えた17番ではクラッチパットを着実に沈めてパーを拾った。バンカーからピン1メートルへ寄せた18番の第3打は見事だった。最悪でもパーで良しと考えたラストホールはバーディーフィニッシュとなり、2位に2打差で勝利。「アドレナリンのおかげで寒さは感じなかった」。
勝利への渇望をそうやってコントロールし、忍耐と冷静さで初優勝をもぎ取ったトンプソン。「自分のゲームプラン通りに戦っただけ」。地味で地道で堅実なゴルフが、強風と寒波に見舞われた難コースを制し、スポットライトの興奮を熟知している他選手たちすべてに勝った(まさった)日。
それは、ゴルフの怪か、ゴルフの妙か。それとも、それがゴルフなのだろうか。