しかし、ほんの数年前の2010年、その試合数はわずか4試合。その年に主催4社のうちの1社としてツアー参入を果たし、以降開催を続けているのがBPカストロール株式会社だ。同社が抱く「カストロールレディース」への思いとは? 今年の大会が行われた7月25、26日に試合会場を訪れ、同社の代表取締役社長・小石孝之氏と、コンシューマー事業部 関東第1支店支店長・檜垣峰男氏に話を聞いた。(取材・文/間宮輝憲)
一社単独開催を貫く理由
小石氏「この大会は協賛企業を入れず、一社単独で開催してきました。ステップの試合でも、他は地元の企業や新聞社などが協賛に名を連ね、会場の看板にはその企業名やロゴなどをたくさん見かけると思います。その分、商品も豪華だったりするので、華やかさでいうとカストロールレディースは劣るかもしれない。でも、それはそれでうちのやり方だと思っています」
ツアーは冠企業のほかに、協賛という形で別の企業が参画するケースが多い。この場合、会場には様々な企業名やロゴが目に飛び込んでくるものだ。しかし、カストロールレディースは一社単独開催。だからこそ、その会場は、見事なまでの統一感で包まれていたのだ。ではなぜ単独開催を貫くのか?
小石氏「トーナメントを成功させる、選手達を育てるという思いに加えて、企業としては、この大会をいかにビジネスにつなげるかも考えなくてはいけない。その時に一番大きいのが『プロアマ』なんです。そこにお客さんに来てもらい、喜んでもらう。これが大前提にあります。一社単独の場合、前夜祭やプロアマに参加する人は、うちのお客様しかいない。色々と自由もききますし、それは大きいですね」
小石氏「ステップの大会自体が少なかった時は、今よりも試合に出る機会がないという選手が多かった。そのなかで、レギュラーツアーのような雰囲気を味わってもらおうと思って始めたのがきっかけでした。緊張をほぐすという意味もありますし、真剣に勝負に行く気持ちを作ってもらえればと思いながらやっています」
自社の顧客や、選手への細かな気配り。それは、自分たちで作り上げる大会だからこそ実現するものなのかもしれない。
契約プロとの関係
小石氏「うちは外資ですし、ゴルフに割り当てられる資金は決して多くはない。金額も『シード選手はいくら』、『QT上位はいくら』と一律。それを受け入れてもらえて初めて契約に至ります」
しかし、その背景にはこんな考えもある。
小石氏「自分の力で稼ぐのがプロのアスリートだと思っています。それがいいか、悪いかは別として、大量の契約金をもらって、試合で活躍できないのは違うのでは?と思ってしまいます。うちは所属契約も結びません。それもあって、他から所属契約のオファーがあった時には『それで離れるのは構わないよ』という思いは常に持っています」
今回会場を歩いて感じたこと。それは契約元であるBPカストロールと契約プロとの関係の深さだ。小石氏がスタートコールをする1番ティ。契約プロは社長の姿を見つけると一様に笑みを浮かべ、その元へと寄ってくる。選手と社長がとても楽しそうに会話をする光景を目にしたのは1度や2度ではない。また前夜祭では、選手一人ひとりのエピソードを楽しそうに披露する小石氏の姿も。その関係は、まさに“ファミリー”という言葉がしっくりとくる。
この関係はどのように作られているのか?そう聞くと檜垣氏から間髪入れず、「とにかく試合会場に足を運んでいますよ。社長自ら現場に足を運ぶ機会は、他の企業より多いと思いますよ」という答えが返ってきた。
小石氏「出張が重なって同じ地区に居る時は、足を運ぶこともあります。そしてその時僕は1人のギャラリー。一緒について回って大きな声で『入れー!』とか言っていると、選手は『あっ、来てる』と思うみたい(笑)」
続けて檜垣氏も「テレビを見てる時に声が聞こると『あ、行っているな』というのが社員にも分かります」と言って笑った。一人のファンとしてゴルフに接するからこそ得られる選手からの信頼。それを、このエピソードから感じ取った。
契約プロに求めるもの
小石氏「選手によって求めるものは違います。シード選手であれば、たくさん勝って広告塔のようになってくれたら、それに越したことはない。ただ若手ならば、『天狗にならない子』。人間性は大事です。実力と人気をはきちがえることなく、同じ仕事をしている先輩にかわいがってもらえるような選手であって欲しいですね。力があれば別ですけど、人気は未来永劫(みらいえいごう)続くものではありません」
多くの若手選手とも契約する同社。やはり、飛躍する姿を見るのは楽しいことと小石氏は語る。例えば、昨年契約を結び、同年のステップで年間3勝を挙げた野澤真央。QTでも20位となり、今季はレギュラーツアーを主戦場にする今が伸び盛りの選手の一人だ。
そう柔和な表情で話した小石氏。“親心”。そんな気持ちを感じられずにはいられない。そして小石氏は続けて、こんな持論も口にした。
小石氏「プロテストに受かった以上、選手の技量はそんなに変わらないと僕は思っています。もちろん、もともとのポテンシャルが高い選手もいる。でも、厳しいプロテストを通っているわけですから、多くの選手は基本的に変わらないはずなんです。ではその後、何が違ってくるのか。それは、『マネジメント力』だと僕は思っています」
“攻める場面”と“守る場面”の見極め。一打でも少なくホールアウトするために、どうリスクを回避していくか…。そういったことを『考えるゴルフ』を、小石氏は若手選手達に求めている。
BPカストロールとゴルフ
来年「カストロールレディース」は節目の10年目を迎える。だからといって、何かが変わるわけではない。参戦した時から思い描いていたビジョンをブレずに貫く。それがBPカストロールの考えだ。
今大会で最も重要ともいえるテーマがある。それが“プロのための大会”というもの。アマチュアの出場者は「0」。そのコンセプトも今後変わることはない。
小石氏「LPGAさんは、2020年の東京五輪を意識して、若手育成にも力を入れています。もちろん、プロの試合が力試しの場になることは理解できます。でも、その人数分だけ賞金を稼げない、試合に出たくても出られないプロ達が出てきます。プロだけが参加する試合はあってもいい。このカストロールレディースは、これからもそういう大会として開催します」