<カシオワールドオープン 最終日◇26日◇Kochi黒潮カントリー クラブ(高知県)◇7335ヤード・パー72>
昨年の9月にプロ転向をした中島啓太が2023年シーズンの賞金王に輝いた。ホールアウト後、王座争いをしていた金谷拓実とハグを交わす。中島が「1年間ありがとうございました。また来週も優勝争いしましょう」と言えば、金谷は「本当に強かった」と互いに賛辞を伝えた。
「最高の相手といい勝負ができました」と話すように、相手が金谷だったからこその結果だという。「金谷さんがいなかったら、自分もここまで粘れていないと思いますし、賞金王になれていたかわからない。金谷さんと賞金王争いできたことを本当にうれしく思いますし、勝てたということはすごく自信になります」と激闘の賞金王争いを振り返る。
金谷はそんな中島のことを「彼の人柄、ゴルフだけじゃない素晴らしさ。僕は彼のことが大好きです」と褒めちぎる。それを中島に伝えると、「僕も好きです。本当にスポーツマンシップだったりとか、そういうアスリートの心を持たれている方なので。優勝争いして、どっちが勝ってどっちが負けても、気持ちいい試合になる。そういう戦いを1年間できて光栄です」。“相思相愛”であるライバルの存在が、賞金タイトルへの原動力となった。
さらに、中島には絶対に負けたくない理由があった。今大会の3日目を終えたときに、幼なじみが亡くなったことを知らされた。「彼のためにも絶対に今週で決めたいって思ってましたし、上で見守ってくれていると信じていた。彼のパワーもあって、賞金王になれる自信はありました。彼と、彼の家族のために今日は戦おう、と。今日は多分何度か…最後のイーグルも多分、彼の力だと思う。それで賞金王になれてうれしいです」と涙をこぼしながら、明かしてくれた。
最終18番の3打目のアプローチを打つ前、中島は空を見上げた。「『ここで決めないといけない』っていう強い気持ちと、彼のために『これは絶対に入れたい』っていう」。集中して放った一打は、「実はちょっと左に跳ねたんですけど、最後スライスして真ん中から入ってくれた。あれは自分の力ではないと思う」。中島の言う通り、幼なじみが天国から力を貸してくれたのだろうか。
激闘の果てにつかんだ賞金王タイトルは、中島のあらゆる想いがつまった結晶だ。天国の幼なじみにも、この素晴らしい結果が届いているに違いない。(文・高木彩音)