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全米プロ、「優勝者」と「立役者」【舩越園子コラム】
今年の全米プロは2人の主役がいた。1人は優勝したブルックス・ケプカ、もうひとりは46歳の無名のクラブプロだ。
配信日時:配信日時: 2023年5月22日 03時00分
Round 4 | ||
---|---|---|
順位 | Sc | PLAYER |
1 | -9 | ブルックス・ケプカ |
2 | -7 | スコッティ・シェフラー |
2 | -7 | ビクトル・ホブラン |
4 | -3 | キャメロン・デービス |
4 | -3 | ブライソン・デシャンボー |
4 | -3 | カート・キタヤマ |
7 | -2 | セップ・ストレイカ |
7 | -2 | ローリー・マキロイ |
9 | -1 | パトリック・キャントレー |
9 | -1 | ジャスティン・ローズ |
今季2つ目のメジャー大会、全米プロゴルフ選手権最終日の優勝争いは、トータル6アンダーの単独首位で最終日を迎えたブルックス・ケプカが2番から3連続バーディを奪い、1打差から出たビクトル・ホブランを早々に3打も引き離して勢いづいた。
しかし、ホブランも4番、5番の連続バーディで巻き返し、以後は両者とも一進一退の大接戦になった。
ターニングポイントとなったのは16番。フェアウエイバンカーにつかまったホブランが脱出に失敗してトラブルに陥り、ダブルボギーを喫した一方で、ケプカはこの日7つ目のバーディを獲得し、2人の差は一気に4打へ広がった。
17番ではケプカがティショットを右に曲げてボギーを叩き、3打差へ。18番ではホブランがバーディを奪ったものの、それでも2人のギャップは2打もあり、パーパットを沈めたケプカが堂々の勝利。全米プロ3勝目、メジャー5勝目を挙げ、満面の笑顔を輝かせた。
33歳のケプカは、これまでPGAツアーで通算8勝を挙げ、そのうちの4勝がメジャー大会だったため、「メジャーに強い選手」と呼ばれていた。
とはいえ、2018年と2019年に全米プロを連覇して以降はメジャー優勝を挙げられず、PGAツアーのレギュラー大会でも21年のウェイスト・マネジメント・フェニックス・オープンを最後に勝利から遠ざかった。
成績低迷の原因はヒザの故障。キャリアの終焉がささやかれるほど彼のヒザは悪化し、2022年はメジャー4大会すべてにおいて予選落ちと下位どまりの惨たんたる結果になった。そして、身も心もゴルフもボロボロになったケプカは、全英オープン終了後にLIVゴルフへ移籍した。
そんなケプカが今春から復活。フロリダ州オーランドで開催されたLIVゴルフの今季第2戦で優勝を挙げると、翌週はその勢いのままマスターズに臨み、オーガスタ・ナショナルでも最終日を単独首位で迎えた。
しかし、最終日は振るわず、ジョン・ラームに逆転勝利を許して2位タイに甘んじた。とはいえ、転んでもタダでは起きないところが、ケプカの強さだ。
「同じ失敗は2度とおかさない。生涯おかさない」
その言葉通り、今大会の最終日のケプカは、マスターズ最終日の彼とは別人のようだった。パワーと正確性の双方を生かし、初日から冴え渡っていたパターを最後までフル稼働させ、たとえミスをしても慌てず乱れず、ホブランに差を縮められても「決してリードを許さない」という強い意思を貫き通して勝利した。
ケプカにとって4年ぶりのメジャー優勝は、「LIVゴルフ選手による初のメジャー優勝」となり、そこには依然として賛否両論がある。
同じLIVゴルフ選手のブライソン・デシャンボーと同組だった3日目は、1番ティでブーイングを食らった。優勝を確実化して迎えた最終日の18番でさえ、大観衆の中にはケプカに拍手を送らない人々の姿も見られた。
だが、どこのツアーの選手であれ、ケプカが故障に泣いた苦悩の日々を乗り越え、見事に勝利を手に入れたことは事実だ。
「信じられない。うれしすぎて言葉を失っている。僕の第2の故郷であるニューヨークのファンの前で勝てたことが、とてもうれしい」
オークヒルに集まっていたニューヨーカーたちは、ケプカのその言葉に歓喜の声を上げた。忍耐と努力と鍛錬を結実させて勝利した彼を、私も心から讃えたいと思う。
そして、もう1人、今大会に出場した20名のクラブプロの中で、ただ一人、予選通過を果たしたマイケル・ブロックの信じられないほどの大奮闘にも拍手を送りたい。
ブロックがクラブプロの大会であるPGAプロフェッショナル選手権を経て、全米プロに出場したのは今年が5度目。長年、夢見ていたローリー・マキロイとの同組ラウンドがついに叶った最終日、15番(パー3)でホールインワンを達成し、マキロイからハグされ、大観衆の喝采を浴びたブロックは、15位タイに食い込んで来年の全米プロ出場資格を獲得。
全米各地のゴルフ場で働く2万8000人のクラブプロのヒーローとなり、今年の全米プロを盛り上げた立役者となった。
最後には感極まって涙を流したブロックに、誰もが笑顔で惜しみない拍手を送った瞬間は、PGAツアーとLIVゴルフの対立でギスギスしている昨今のゴルフ界に久しぶりに漂った「和みのひととき」だった。
あと味、爽やか――、いい戦いだった。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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