【記者の目】キム・セヨンの31アンダーに思う、世界トップを目指す“畑岡奈紗の価値”
【記者の目】キム・セヨンの31アンダーに思う、世界トップを目指す“畑岡奈紗の価値”
配信日時: 2018年7月9日 04時25分
キム・セヨン(韓国)が「ソーンベリー・クリークLPGAクラシック」で圧勝だ。なんと、通算31アンダー(昨年のこの試合の優勝スコアは22アンダー)。アニカ・ソレンスタムと自身が一昨年に作った27アンダーの記録を4打更新し、2位に9打差を付けた。
ちなみに、使用ドライバーは古く、2013年発売のテーラーメイド『SLDR』で(シャフトはATTASパンチ)、最終日は平均282ヤード、4日間平均でも274.88ヤードを記録。また、契約するミズノのサイトに使用アイアンは『MP-66』とあるが、画像を見る限り『Mizuno Pro518』の海外版である『MP-18』を使用。そして、4日間で72ホール中、67回と驚異的なパーオンをマークしていた。
■PGATOURだけじゃない。米国女子ツアーも急速に進化!?■
とんでもない優勝スコアが出たため、ここ数年の7月末までの米国女子ツアーの優勝スコアを振り返ってみた。20アンダー以上で見ると、今季はここまで4試合と、実は昨季よりも少なかった。昨季は同時期までに7試合で優勝スコア20アンダー越えがあった。その前の2016年は2試合、2015年が3試合、2014年は2試合、2013年は3試合となっている。
それ以前を振り返ると、通年を通して2012年が1試合、2011年も1試合、2010年2試合、2009年3試合、2008年が3試合と、20アンダー越えの優勝スコアには若干の波が見て取れた。ただし、20アンダーが出るかどうかは、年によってのコースセッティングと選手の調子にも大きく左右されるもの。そこで、米国女子ツアーの平均スコアを見てみることにしよう。
その推移は別表のR&Aのディスタンスレポートを見るのがわかりやすい。2008年に一旦最高値を記録しながら、2009年から2011年で後退に転じている。再び上昇に転じたのが2012年で、2013年には大幅な伸びを記録。その後、2014、2015年で横ばいを記録した後、2016年に再び上昇。そして、昨季の2017年に大幅に伸びる結果となっていた。他のツアーに比べても、平均スコアの伸びが著しいことがよく分かる。
■昨季の平均60台の数は、なんと12人!■
10年前は平均スコアが「72.5」、つまりオーバーパーを越えるのが当たり前だった米国女子ツアー。ところが、昨季は平均スコアで「71.5」近くに急進、平均スコアでアンダーパーに入った。実際、平均スコア上位の推移を見てみると、昨季は60台の選手が12人もいた。(国内女子ツアーで年間通じて60台は過去になし)
これがいかに凄いことか、過去の平均スコア60台を振り返るとよく分かる。米国女子ツアーで最初に平均スコア60台を記録したのは、1998年のアニカ・ソレンスタム。翌年の1999年にもカリー・ウェブがただ一人の60台を記録。その後は、ツアーのトップか、トップ2名のみが平均60台を記録することが2010年まで続いた。(2001、02年のアニカと朴セリ、04年のアニカとグレース朴、06、08年のロレーナ・オチョアとアニカ、10年のチェ・ナヨンとクリスティ・カー)
平均60台が3人になったのが2013年で(ステーシー・ルイス、スーザン・ペターセン、インビー・パーク)、これ移行は3人以上が当たり前となる。2014年は4人、2015年は3人、2016年は5人、2017年は12人、2018年はここまででは7人となっている。
■背景にあるのは飛距離アップ!?■
なぜ、米国女子ツアーの平均スコアは急激に伸びているのだろうか。この時代に、コースセッティングが急にやさしくなるとは考え難い。むしろ、距離も長くなり、年々厳しさを増す一方に感じる。そこで、再度R&Aのディスタンスレポートを見てみると、気がかりなデータが。
その昔、高反発がOKだった2003、04年、そして禁止後の06、09年にドライビングディスタンス250ヤードのカベを越えている。だが、その後ずっと平均250ヤード以下だったが、別表のように2016年に急伸。254ヤード近くまで一気に5ヤード前後平均で伸びている。2017年に1ヤードほど落ちたものの、これがスコアと無関係とは思えないのだ。
ただし、昨季の平均60台の12人が、すべてトップどころの飛ばし屋ばかりか?と問われるとそうではない。(チョン・インジは平均246.55ヤードの132位だし、リディア・コも246.85ヤードの129位、インビー・パークも248.03ヤードの116位だ)それでも、昨季の平均スコア1位レクシー・トンプソンはじめ、平均270ヤードを越えるプロが多いのも事実。
■去年、世界中のツアーで飛距離が伸びたが…■
再びディスタンスレポートを見てみると、昨季は世界中のツアーで大幅に飛距離が伸びた年となっていた。欧州女子ツアーも平均5ヤード以上、国内男子ツアー、ウェブドットコムツアーがドライビングディスタンスの大幅な伸びを記録している。
筆者はこの状況を見てまず疑ったのは「キャロウェイ『GBB EPIC』のせいではないか?」ということ。2本の柱が入ったこのヘッドは「プロゴルファーのための高反発」と業界内でささやかれるほどの飛距離性能がウリだからだ。ところが、使用者が多いはずの米国女子ツアーでは、昨季全世界のツアーで唯一平均飛距離が落ちていた。重ねて言うが、急伸したのは2016年なのだ。
このことから、LPGAツアーの飛距離アップに関して、ある特定のクラブによる影響とは考え難い状況になった。残る可能性としては、やはり世代的なものなのかもしれない。
■やさしいクラブで早まるトップまでの成長速度■
アリヤ・ジュタヌガーンにしろ、レクシー・トンプソンにしろ、いま米国女子ツアーで活躍するトップ選手たちは10代でトップレベルに到達していた。畑岡奈紗もそうだが、20年前では考えられないほど、トップレベルに到達する年齢が早くなったと感じる。この早熟さと、クラブの進化は無関係ではないだろう。
各社のドライバーの最大サイズが460ccとなったのは、大手海外メーカーではタイトリストが一番遅く、2006年のことだったと思う。PINGやキャロウェイ、テーラーメイドはそれ以前で460ccの最大サイズに達していた。そして、国産メーカーが最大サイズに達するのはもう少し後のことだったと思う。
そして、昨今のカーボンシャフト、スチールシャフトの進化。昔では考えられないほど、軽くても強度を保てるようになったうえ、そのバリエーションも増えた。そんな道具の進化が、トップレベルに到達するスピードを早めているとしか思えない。
■この時代に世界トップを狙う畑岡奈紗の価値は…■
平均スコア60台の選手がわんさか生まれ、飛距離も伸び、プレーレベルが引き上がる米国女子ツアー。最多アンダーのカベが4打も更新され、今後は20アンダー以上を狙うのがどんどん「当たり前」になるのかもしれない。わずか10年前でも考えられないような、早熟なプレーヤーがアジア圏だけでなく、世界中から生まれる構図となっているのだから。
そんな時代に世界トップを目指す、畑岡奈紗の“価値”をどう考えるだろうか。レジェンド・宮里藍の引退があり、米国女子ツアーへの注目度は、PGAツアーや国内女子ツアーと比べれば、日本の中では低いものだと感じる。だが、挑んでいる舞台のレベルの高さを改めて考えると、松山英樹と同様に、その挑戦を“国民感情として”心から応援したくなるものだ。(もちろん、上原彩子、野村敏京、横峯さくらも同様に)
Text/Mikiro Nagaoka
ちなみに、使用ドライバーは古く、2013年発売のテーラーメイド『SLDR』で(シャフトはATTASパンチ)、最終日は平均282ヤード、4日間平均でも274.88ヤードを記録。また、契約するミズノのサイトに使用アイアンは『MP-66』とあるが、画像を見る限り『Mizuno Pro518』の海外版である『MP-18』を使用。そして、4日間で72ホール中、67回と驚異的なパーオンをマークしていた。
■PGATOURだけじゃない。米国女子ツアーも急速に進化!?■
とんでもない優勝スコアが出たため、ここ数年の7月末までの米国女子ツアーの優勝スコアを振り返ってみた。20アンダー以上で見ると、今季はここまで4試合と、実は昨季よりも少なかった。昨季は同時期までに7試合で優勝スコア20アンダー越えがあった。その前の2016年は2試合、2015年が3試合、2014年は2試合、2013年は3試合となっている。
それ以前を振り返ると、通年を通して2012年が1試合、2011年も1試合、2010年2試合、2009年3試合、2008年が3試合と、20アンダー越えの優勝スコアには若干の波が見て取れた。ただし、20アンダーが出るかどうかは、年によってのコースセッティングと選手の調子にも大きく左右されるもの。そこで、米国女子ツアーの平均スコアを見てみることにしよう。
その推移は別表のR&Aのディスタンスレポートを見るのがわかりやすい。2008年に一旦最高値を記録しながら、2009年から2011年で後退に転じている。再び上昇に転じたのが2012年で、2013年には大幅な伸びを記録。その後、2014、2015年で横ばいを記録した後、2016年に再び上昇。そして、昨季の2017年に大幅に伸びる結果となっていた。他のツアーに比べても、平均スコアの伸びが著しいことがよく分かる。
■昨季の平均60台の数は、なんと12人!■
10年前は平均スコアが「72.5」、つまりオーバーパーを越えるのが当たり前だった米国女子ツアー。ところが、昨季は平均スコアで「71.5」近くに急進、平均スコアでアンダーパーに入った。実際、平均スコア上位の推移を見てみると、昨季は60台の選手が12人もいた。(国内女子ツアーで年間通じて60台は過去になし)
これがいかに凄いことか、過去の平均スコア60台を振り返るとよく分かる。米国女子ツアーで最初に平均スコア60台を記録したのは、1998年のアニカ・ソレンスタム。翌年の1999年にもカリー・ウェブがただ一人の60台を記録。その後は、ツアーのトップか、トップ2名のみが平均60台を記録することが2010年まで続いた。(2001、02年のアニカと朴セリ、04年のアニカとグレース朴、06、08年のロレーナ・オチョアとアニカ、10年のチェ・ナヨンとクリスティ・カー)
平均60台が3人になったのが2013年で(ステーシー・ルイス、スーザン・ペターセン、インビー・パーク)、これ移行は3人以上が当たり前となる。2014年は4人、2015年は3人、2016年は5人、2017年は12人、2018年はここまででは7人となっている。
■背景にあるのは飛距離アップ!?■
なぜ、米国女子ツアーの平均スコアは急激に伸びているのだろうか。この時代に、コースセッティングが急にやさしくなるとは考え難い。むしろ、距離も長くなり、年々厳しさを増す一方に感じる。そこで、再度R&Aのディスタンスレポートを見てみると、気がかりなデータが。
その昔、高反発がOKだった2003、04年、そして禁止後の06、09年にドライビングディスタンス250ヤードのカベを越えている。だが、その後ずっと平均250ヤード以下だったが、別表のように2016年に急伸。254ヤード近くまで一気に5ヤード前後平均で伸びている。2017年に1ヤードほど落ちたものの、これがスコアと無関係とは思えないのだ。
ただし、昨季の平均60台の12人が、すべてトップどころの飛ばし屋ばかりか?と問われるとそうではない。(チョン・インジは平均246.55ヤードの132位だし、リディア・コも246.85ヤードの129位、インビー・パークも248.03ヤードの116位だ)それでも、昨季の平均スコア1位レクシー・トンプソンはじめ、平均270ヤードを越えるプロが多いのも事実。
■去年、世界中のツアーで飛距離が伸びたが…■
再びディスタンスレポートを見てみると、昨季は世界中のツアーで大幅に飛距離が伸びた年となっていた。欧州女子ツアーも平均5ヤード以上、国内男子ツアー、ウェブドットコムツアーがドライビングディスタンスの大幅な伸びを記録している。
筆者はこの状況を見てまず疑ったのは「キャロウェイ『GBB EPIC』のせいではないか?」ということ。2本の柱が入ったこのヘッドは「プロゴルファーのための高反発」と業界内でささやかれるほどの飛距離性能がウリだからだ。ところが、使用者が多いはずの米国女子ツアーでは、昨季全世界のツアーで唯一平均飛距離が落ちていた。重ねて言うが、急伸したのは2016年なのだ。
このことから、LPGAツアーの飛距離アップに関して、ある特定のクラブによる影響とは考え難い状況になった。残る可能性としては、やはり世代的なものなのかもしれない。
■やさしいクラブで早まるトップまでの成長速度■
アリヤ・ジュタヌガーンにしろ、レクシー・トンプソンにしろ、いま米国女子ツアーで活躍するトップ選手たちは10代でトップレベルに到達していた。畑岡奈紗もそうだが、20年前では考えられないほど、トップレベルに到達する年齢が早くなったと感じる。この早熟さと、クラブの進化は無関係ではないだろう。
各社のドライバーの最大サイズが460ccとなったのは、大手海外メーカーではタイトリストが一番遅く、2006年のことだったと思う。PINGやキャロウェイ、テーラーメイドはそれ以前で460ccの最大サイズに達していた。そして、国産メーカーが最大サイズに達するのはもう少し後のことだったと思う。
そして、昨今のカーボンシャフト、スチールシャフトの進化。昔では考えられないほど、軽くても強度を保てるようになったうえ、そのバリエーションも増えた。そんな道具の進化が、トップレベルに到達するスピードを早めているとしか思えない。
■この時代に世界トップを狙う畑岡奈紗の価値は…■
平均スコア60台の選手がわんさか生まれ、飛距離も伸び、プレーレベルが引き上がる米国女子ツアー。最多アンダーのカベが4打も更新され、今後は20アンダー以上を狙うのがどんどん「当たり前」になるのかもしれない。わずか10年前でも考えられないような、早熟なプレーヤーがアジア圏だけでなく、世界中から生まれる構図となっているのだから。
そんな時代に世界トップを目指す、畑岡奈紗の“価値”をどう考えるだろうか。レジェンド・宮里藍の引退があり、米国女子ツアーへの注目度は、PGAツアーや国内女子ツアーと比べれば、日本の中では低いものだと感じる。だが、挑んでいる舞台のレベルの高さを改めて考えると、松山英樹と同様に、その挑戦を“国民感情として”心から応援したくなるものだ。(もちろん、上原彩子、野村敏京、横峯さくらも同様に)
Text/Mikiro Nagaoka