実録‐‐ヤマハゴルフ、大型契約の裏にあったもの
2017年、ヤマハゴルフが大きく動いた。 藤田寛之、谷口徹、野村敏京、大江香織という既存の契約プロに加え、大山志保、有村智恵、今平周吾、ユン・チェヨンらを獲得。 近年にない大型移籍の裏には何があったのか。 当時、ゴルフHS事業推進部マーケティンググループ グループリーダーだった吉田信樹の証言。
配信日時: 2017年2月27日 11時00分
取り続けた大山志保とのコミュニケーション
「女子プロといっても、単に強さやルックスで契約すればいいというわけではない。inpres、RMXそれぞれにブランドイメージがあり、それに則った選手をピックアップしました」
RMXのキーワードは「アグレッシブ」。多少ボールを曲げても果敢に攻め、豊かな感情表現とともに18ホールを戦い抜く。定性的に見ながらピッタリのキャラクターとしてアプローチした一人が大山だったわけだ。
「2015年5月下旬に初めて接触しました。今でも忘れません、プロアマのパーティ前です。本人に関心を持っている旨を伝えると、まずはお礼をもらったうえでマネジメント会社の連絡先を聞くことができました」
当時38歳になったばかりの大山の考え方は至ってシンプルだった。年齢的にも飛距離が欲しい。飛距離があれば、自らの身上である攻撃的ゴルフを体現できる。
「お金ではなくマテリアル。今よりも飛べば検討することは可能です」
ヤマハゴルフの挑戦が始まった。タイミングを見計らって選手スタッフと開発スタッフを連れて宮崎に足を運び、大山にテストをしてもらう。プロによってテストの方法は異なる。大山は弾道距離測定器を使わず、必ず9ホールを回って打ち比べて自分のフィーリングを大事にした。距離を測るため、着弾点では吉田が待機してキャリー地点に目印を置いた。
「ボールが飛んでくるたびに、どっちのクラブで打ったのか? というドキドキしかなかったですね。われわれのクラブのほうが飛んでくれ、と願いを込めて……」
そんな吉田の思いもむなしく、1年目は獲得に失敗する。虚脱感がなかったといえばウソになるが、
「マテリアルがよくなければ、彼女にとって(クラブを)替える必要はまったくない。われわれの努力不足だった」
と気持ちを切り替え、当然のようにプロジェクトは続行された。
吉田は前年以上に大山とのコミュニケーションも深めた。大山は知人とのやりとりで某無料メールアプリを使っているが、吉田もダウンロード。簡単なやり取りの中にも常に思いを込めた。
「2016年はリオ五輪があったわけですが、大会期間中もやり取りをしました。でも、活躍を願う半面、五輪期間中は複雑な胸中でしたね。ここで結果を出したら契約の行方はどうなるんだろうと……。語弊がないように、もう一度いいますね。もちろん活躍を願っていましたよ(笑)」
マテリアルは開発陣を信頼し、吉田は人と人とのつながりに邁進した。