打打打坐 第13回【OKサークルの円周率】
打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。
配信日時: 2020年7月10日 06時00分
OKパット・ストーリーズ
OKは和製英語で、海外では通じないといううんちくの前に、ストロークプレーにおいてOKパットを認めるルールは存在しません。つまり、重大な規則違反というわけです。しかし、一般的なゴルファーの多くは、OKパットを採用するゴルフを教えられて、ゴルフをやめるその日までOKパットをし続けているようです。
僕が初めてOKパットを見たのは、1981年夏、初出場した高校選手権の予選の1番ホールのグリーンでした。僕は高校1年生で、他は3年生2名と2年生1名の4人で、夏休みに入ったばかりの平日の河川敷のコースをバッグを担いでプレーしていました。何もかもが初体験で、ドキドキワクワクでした。
僕はこの年の関東予選で唯一の都立高校から個人参加の選手で、他の3人は私立高校ゴルフ部の選手です。それぞれが別の学校ですが、スタート前の挨拶の雰囲気で、2年生と、3年生の一人は顔見知りのようだとわかりました。後になって、競技ゴルフに最も精通していたのは2年生で、知り合いではない3年生のもう一人は、僕と同じように初めての公式戦参加だったと判明します。
緊張のスタートホールでしたが、どうにかグリーンに乗って、僕は4ヤードのパーパットを残していました。2年生の先輩だけパーオンしていて、残りの3人は、同じようなものでした。
一番最初に2年生がバーディーパットを打って、50センチぐらいオーバーして、お先という感じでパーでホールアウトしました。次に、もう一人のほうの3年生がパットを打ちました。50センチぐらいショートしました。
「グリーンが遅すぎるんだよ!」
かなり大声で文句を言った先輩は、ボールに近づき、パターの裏側を使って、自分のボールをヒョイッと拾い上げたのです。
「あっ!」
思わず声が出てしまいました。競技ゴルフでは、自分のスコアカードは同伴者に書いてもらって、最後に戻してもらったものに確認のサインをして提出します。僕はその先輩のスコアカードを持っているマーカーだったので、ちゃんと打数を数えないとダメだ、と注意して見ていたからです。
2年生が、「それ、ペナルティーですよ。ボール戻して、打ち直してください」と言ってくれました。助かった、この人に聞けば大丈夫だと安心しましたが…… 当事者の先輩は僕のほうを見て、恫喝するように言ったのです。
「おい。今のOKだよな!」
ゴルフ歴3年。僕の周囲でOKパットをする人はいなかったので、OKパットという意味がわかりませんでした。何をどうしたらよいのかわからず、頬が熱くなっていくのを感じて、動揺していたら、競技委員がグリーンサイドで、その全てを見ていたのです。グリーンに上がってきて、正しい処置を説明してくれて、マーカーの僕に「彼のスコアに2打を加えるように」と教えてくれました。
その直後、僕は、4ヤードの自分のパーパットを入れて、スタートホールはパーだったのですけど、そのパット記憶がほとんどありません。
結局、41、39でプレーしましたが、79がカットラインで1打及びませんでした。終わってみて、初めての競技でハーフ30台でプレーできたこと、ゴルフをしている高校生が何百人(関東予選は4日か、5日に分かれて、各日160人ぐらいの中から上位数名が本戦に行けた)もいること、担ぎでプレーするゴルフが楽しかったこと、等々。悔しいとかより、よくやった! 楽しかった! という初競技ゴルフ経験になったのです。
僕は周囲の人たちが意識して、悪習を見せないようにしていたことの一つがOKパットだったのだと、後で知らされました。ジュニア競技で、選手が習慣でOKパットをやってしまう悲劇は数十年間、後を絶ちません。
大人になってから社会人になってゴルフを覚えた同級生とゴルフをして、僕が当たり前のようにOKを求めないし、彼らにもOKしないことに、ふざけるな、と怒った友人がいました。社用族でゴルフを覚えた彼は、生まれて初めて、数十センチのパットをしたらしいのです。見事なぐらい外しまくっていて、酷いホールでは6パットを記録していました。友人は、僕が意地悪をして、苦しんでいるのを楽しんでいると勘違いしたようでした。この日はコンペで、「完全ホールアウト・ルール」でした。つまり、OKパットはルール通り禁止だったのです。
彼と誤解を解きながら、初心者の時からOKパットでゴルフをすれば、確かに、一生短いパットを打たないゴルフもあるのだと知ったのです。彼は今でも、完全ホールアウトでも、3パットしたら次はOKするのがマナーだと言い切っています。
僕が初めてOKパットを見たのは、1981年夏、初出場した高校選手権の予選の1番ホールのグリーンでした。僕は高校1年生で、他は3年生2名と2年生1名の4人で、夏休みに入ったばかりの平日の河川敷のコースをバッグを担いでプレーしていました。何もかもが初体験で、ドキドキワクワクでした。
僕はこの年の関東予選で唯一の都立高校から個人参加の選手で、他の3人は私立高校ゴルフ部の選手です。それぞれが別の学校ですが、スタート前の挨拶の雰囲気で、2年生と、3年生の一人は顔見知りのようだとわかりました。後になって、競技ゴルフに最も精通していたのは2年生で、知り合いではない3年生のもう一人は、僕と同じように初めての公式戦参加だったと判明します。
緊張のスタートホールでしたが、どうにかグリーンに乗って、僕は4ヤードのパーパットを残していました。2年生の先輩だけパーオンしていて、残りの3人は、同じようなものでした。
一番最初に2年生がバーディーパットを打って、50センチぐらいオーバーして、お先という感じでパーでホールアウトしました。次に、もう一人のほうの3年生がパットを打ちました。50センチぐらいショートしました。
「グリーンが遅すぎるんだよ!」
かなり大声で文句を言った先輩は、ボールに近づき、パターの裏側を使って、自分のボールをヒョイッと拾い上げたのです。
「あっ!」
思わず声が出てしまいました。競技ゴルフでは、自分のスコアカードは同伴者に書いてもらって、最後に戻してもらったものに確認のサインをして提出します。僕はその先輩のスコアカードを持っているマーカーだったので、ちゃんと打数を数えないとダメだ、と注意して見ていたからです。
2年生が、「それ、ペナルティーですよ。ボール戻して、打ち直してください」と言ってくれました。助かった、この人に聞けば大丈夫だと安心しましたが…… 当事者の先輩は僕のほうを見て、恫喝するように言ったのです。
「おい。今のOKだよな!」
ゴルフ歴3年。僕の周囲でOKパットをする人はいなかったので、OKパットという意味がわかりませんでした。何をどうしたらよいのかわからず、頬が熱くなっていくのを感じて、動揺していたら、競技委員がグリーンサイドで、その全てを見ていたのです。グリーンに上がってきて、正しい処置を説明してくれて、マーカーの僕に「彼のスコアに2打を加えるように」と教えてくれました。
その直後、僕は、4ヤードの自分のパーパットを入れて、スタートホールはパーだったのですけど、そのパット記憶がほとんどありません。
結局、41、39でプレーしましたが、79がカットラインで1打及びませんでした。終わってみて、初めての競技でハーフ30台でプレーできたこと、ゴルフをしている高校生が何百人(関東予選は4日か、5日に分かれて、各日160人ぐらいの中から上位数名が本戦に行けた)もいること、担ぎでプレーするゴルフが楽しかったこと、等々。悔しいとかより、よくやった! 楽しかった! という初競技ゴルフ経験になったのです。
僕は周囲の人たちが意識して、悪習を見せないようにしていたことの一つがOKパットだったのだと、後で知らされました。ジュニア競技で、選手が習慣でOKパットをやってしまう悲劇は数十年間、後を絶ちません。
大人になってから社会人になってゴルフを覚えた同級生とゴルフをして、僕が当たり前のようにOKを求めないし、彼らにもOKしないことに、ふざけるな、と怒った友人がいました。社用族でゴルフを覚えた彼は、生まれて初めて、数十センチのパットをしたらしいのです。見事なぐらい外しまくっていて、酷いホールでは6パットを記録していました。友人は、僕が意地悪をして、苦しんでいるのを楽しんでいると勘違いしたようでした。この日はコンペで、「完全ホールアウト・ルール」でした。つまり、OKパットはルール通り禁止だったのです。
彼と誤解を解きながら、初心者の時からOKパットでゴルフをすれば、確かに、一生短いパットを打たないゴルフもあるのだと知ったのです。彼は今でも、完全ホールアウトでも、3パットしたら次はOKするのがマナーだと言い切っています。
OKサークルって何?
OKパットの面白さでもあり、難しさでもあるのが、人によってOKを出す基準がバラバラだということです。
例えば、1ヤードの簡単なラインなら外さないという腕前の人に出すOKと、短いパットが下手で外しまくっている人に出すOKは、長さが違うものです。また、スコアを競っているケースと、気楽にプレーしているケースでも、OKパットの長さは変わります。
昭和の時代の接待ゴルフでは、目下の者が目上の者にOKを出す場合は口頭では失礼なので、目上の人のボールを拾って、行動と一緒に伝えるなんていう所作が一流と言われたものです。今、振り返ると、けっこう滑稽なシーンです。
2020年、新型コロナウィルスの影響で始まったニューノーマルなゴルフでは、ピンフラッグに触れないようにする目的で、OKパットをローカルルールで推奨しようという流れになっています。興味深いのが『OKサークル』です。
カップを中にした30センチから1メートル程度の半径の円を書くのです。具体的には、白いパウダー状の砂で線を引くのが、カップを移動する際にブラシングすれば消えてしまうので良いとされていますが、水性の塗料で円を描くケースもあるようです。(散水すれば目立たなくなる)
OKサークルとは、その円の中にボールが止まったら、OKですよ、という目印なのです。明確にわかり、実際にプレーしてみると、フェアで、同伴者に気を遣わずに済むから良い、という意見が多いそうです。円が目立って、パットがしづらい、という意見や、粋じゃねぇなぁ、という意見もあると聞きますが、数回プレーすれば慣れてしまうことのような気がします。
OKサークルは設置するのに手間がかかるので、ごく一部のゴルフコースで実験的に導入されているのが現状です。個人的には、当たり前のように広まると良いなぁ、と思っています。
コースによって、または、ホールによってサークルの半径が違ったりするのも楽しそうです。やさしいグリーンは小さなサークルで、難しいグリーンは大きなサークルというのは、実用的にも面白いと思いませんか?
例えば、1ヤードの簡単なラインなら外さないという腕前の人に出すOKと、短いパットが下手で外しまくっている人に出すOKは、長さが違うものです。また、スコアを競っているケースと、気楽にプレーしているケースでも、OKパットの長さは変わります。
昭和の時代の接待ゴルフでは、目下の者が目上の者にOKを出す場合は口頭では失礼なので、目上の人のボールを拾って、行動と一緒に伝えるなんていう所作が一流と言われたものです。今、振り返ると、けっこう滑稽なシーンです。
2020年、新型コロナウィルスの影響で始まったニューノーマルなゴルフでは、ピンフラッグに触れないようにする目的で、OKパットをローカルルールで推奨しようという流れになっています。興味深いのが『OKサークル』です。
カップを中にした30センチから1メートル程度の半径の円を書くのです。具体的には、白いパウダー状の砂で線を引くのが、カップを移動する際にブラシングすれば消えてしまうので良いとされていますが、水性の塗料で円を描くケースもあるようです。(散水すれば目立たなくなる)
OKサークルとは、その円の中にボールが止まったら、OKですよ、という目印なのです。明確にわかり、実際にプレーしてみると、フェアで、同伴者に気を遣わずに済むから良い、という意見が多いそうです。円が目立って、パットがしづらい、という意見や、粋じゃねぇなぁ、という意見もあると聞きますが、数回プレーすれば慣れてしまうことのような気がします。
OKサークルは設置するのに手間がかかるので、ごく一部のゴルフコースで実験的に導入されているのが現状です。個人的には、当たり前のように広まると良いなぁ、と思っています。
コースによって、または、ホールによってサークルの半径が違ったりするのも楽しそうです。やさしいグリーンは小さなサークルで、難しいグリーンは大きなサークルというのは、実用的にも面白いと思いませんか?
OKを上手に利用する時代
僕は長い間、OKパット可、というローカルルールでも、できるだけ自らのボールはホールアウトしていました。他の人がどうであろうと、短いパットまで含めてゴルフだと信じていたのと、OKパットはズルをしているような気がして嫌だったのです。それでも、ケースバイケースで、同伴者の気分を害したくないときなどは、OKパットを採用して自然にゴルフをすることもしてきました。
2020年は、ゴルフも大きく変化しています。春から十数回のラウンドは、全てOKパット採用でプレーしました。ピンフラッグに最小限しか触れないためです。その結果、OKパットを採用したほうが、ハーフで数分間プレー時間が短くなることがわかりました。1打に30秒だとして、9ホールで270秒。一人分だけでも最大で4分半をカットしているわけです。
プレーを速くするハウツーは、ゴルファーにとって、何よりも誇れる腕前になります。OKパットも、使い方次第では武器になると知りました。
OKパット採用でラウンドした後、OKしてもらった数の3倍をノルマにして、50センチのパットの練習をすることにしました。OKパットの弱点は、短いパットを打たないことで、その経験値が著しく下がることです。
短いパットを馬鹿にした者は、短いパットに泣くのがゴルフです。この練習のお陰で、短いパットの衰えは今のところ感じません。余計な練習をしていると思うことはありますが、馬鹿馬鹿しいことに必死になるのもゴルフの内で、一周回って楽しくなって来るものです。
正式なルールでは、ストロークプレーにおいてOKパットは認められません。OKパットをローカルルールで採用して、ゴルフをより安全に楽しむ時代が来るなんて欠片も想像していませんでした。
OKサークルがあれば、このコースは感染対策の一環でローカルルールでOKパットを推奨している証になります。工夫をして設置すれば、コース全体のプレーのスピードアップになる可能性もあります。情熱のあるコースに、少し面倒でも、メリットもあります、と、OKサークルの採用を促してみようと思う夏は過ぎて行くのです。
2020年は、ゴルフも大きく変化しています。春から十数回のラウンドは、全てOKパット採用でプレーしました。ピンフラッグに最小限しか触れないためです。その結果、OKパットを採用したほうが、ハーフで数分間プレー時間が短くなることがわかりました。1打に30秒だとして、9ホールで270秒。一人分だけでも最大で4分半をカットしているわけです。
プレーを速くするハウツーは、ゴルファーにとって、何よりも誇れる腕前になります。OKパットも、使い方次第では武器になると知りました。
OKパット採用でラウンドした後、OKしてもらった数の3倍をノルマにして、50センチのパットの練習をすることにしました。OKパットの弱点は、短いパットを打たないことで、その経験値が著しく下がることです。
短いパットを馬鹿にした者は、短いパットに泣くのがゴルフです。この練習のお陰で、短いパットの衰えは今のところ感じません。余計な練習をしていると思うことはありますが、馬鹿馬鹿しいことに必死になるのもゴルフの内で、一周回って楽しくなって来るものです。
正式なルールでは、ストロークプレーにおいてOKパットは認められません。OKパットをローカルルールで採用して、ゴルフをより安全に楽しむ時代が来るなんて欠片も想像していませんでした。
OKサークルがあれば、このコースは感染対策の一環でローカルルールでOKパットを推奨している証になります。工夫をして設置すれば、コース全体のプレーのスピードアップになる可能性もあります。情熱のあるコースに、少し面倒でも、メリットもあります、と、OKサークルの採用を促してみようと思う夏は過ぎて行くのです。
【著者紹介】篠原嗣典
ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。
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