松山英樹が出場
米男子ツアーのリーダーボード

打打打坐 第32回【冬が良いか、夏が良いか】

打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

2020年11月20日

プロ野球選手の嘆き

 
ゴルフショップに勤務していた頃、練習場の中にあった店舗の担当だったことがありました。30年以上前の話です。

その店舗の近くにセリーグの某球団の本拠地があった関係で、冬になるとプロ野球選手がゴルフの練習に来て、クラブや用具もたくさん買ってくれました。熱心な選手になると、ほぼ毎日、来てくれるお得意様になり、親しくなって、一緒にゴルフも行くようになりました。

そういう中に、有名なスター選手がいました。とにかくストイックで、ゴルフが大好きな人でした。プロ野球選手は、野手より、投手のほうがゴルフが上手いという傾向がありました。バッティングの専門家ではないから、投手はスイングに野球の癖が出ないという説が有名でしたが、実際は、来る球を反射で打っている野手は、ゴルフのように自分でスタートを決められる動きにアジャストしづらいのだと、多くのプロ野球選手たちは言っていました。動いている球を打つプロだからこそ、止まっている球は難しい、というわけです。

投手は、自分で動き出しを決められるので、ゴルフに向いているという説をスター選手から聞いたとき、当時の僕にはかなりの衝撃があったのでした。

そのスター選手は、野手でしたが、「ライト打ちの要領でスイングするとちょうど良い」と言いながら、70台でプレーすることもある、なかなかの腕前のゴルファーでした。

スター選手なのに気さくで、誰とでも仲良くなれる人だったので、練習場の常連の人たちとも打ち解けて、よくゴルフに行っていました。その当時の練習場の平日の昼間は、不良中年の溜まり場みたいな部分もありました。何の仕事をしているのかわからない中年たちが、毎日、たむろしていました。とはいえ、ゴルファーとしては、競ってちゃんとするように努めている人たちでしたから、トラブルなく、そのスター選手とも仲良しになっていました。

その不良中年たちの集まりで、スター選手は自己ベストを更新するゴルフをして、ベストグロスと優勝を同時に獲得したときがありました。その噂は、その日のうちに、練習場に広まり、ショップにも伝わりました。

「冬のゴルフは、夏のゴルフよりやさしいのかい?」

翌日、スター選手が来店したので、お祝いの挨拶をしていたら、いきなり、聞かれたのです。よくよく聞いてみると、昨日のスコアは冬のやさしい状態のゴルフコースだから出たもので、夏だったら絶対に出ないスコアだと言われたというのです。

「そんなの負け惜しみです。気にすることありません」

と励ましました。

「現役を引退して、夏にも、ゴルフをしたいなぁ」

とスター選手はつぶやいたのです。

夏のほうがやさしいじゃん

それから数年経って、スター選手は現役を引退しましたが、翌年から打撃コーチになって、なかなか夏ゴルフに行ける環境にはならなかったようです。

さらに数年経って、スター選手は別の球団のコーチになりました。そのチームは、内規でコーチ陣は夏でもゴルフをして良かったそうで、念願の夏ゴルフをプレーできた、と喜びの報告がありました。

スター選手は、その年に、年間150ラウンド以上ゴルフをしたそうです。偶然、あるコンペでスター選手に会ったときは、以前、嫉妬の対象となったベストスコアより更に4打も少ないプロゴルファーも顔負けのスコアでベストグロスを獲得していました。

「上手くなったと思ったでしょう?」

と、ニコニコしながら聞かれたので、大きく頷きました。

「夏ゴルフと、冬ゴルフでは、どっちがやさしいのか? わかりましたか?」

と聞くと、真剣な顔になって、すぐに、答えが返ってきました。

「夏のほうがやさしいじゃん、と思っている」

スター選手は、ラフがきついから夏場は難しいと聞いたけれど、入れなきゃ関係ないし、冬に比べて、夏のほうが芝生が厚くてボールが浮いているような感じがするので、断然と夏のほうが良いスコアが出る、と説明してくれました。

意見を求められて、僕は当時、気になっていた話をしました。

「夏は暑いから、ゴルフはしない、という人もいるんですよ。暑さという要素が加わると、ゴルフが難しくなる、ということなのかもしれないですけど、やさしいのにもったいないですよね」

「そんな人がいるんだ。確かに、もったいないね」

笑顔になって、スター選手は続けました。

「僕らは、子供の頃から高校時代まで、夏が野球の本番だったから暑さには強いんだよ。夏のゴルフが好きで、やさしいと感じるのは、その影響もあるのかもしれない。炎天下で、燃えるような暑さのほうが、調子がいいもんね」

当時の僕は、真夏の炎天下でも、楽々ゴルフをしていました。学生のゴルフ部の夏合宿をお手伝いするときには、彼らと一緒にバッグを担いで、1日に2ラウンドしたりしても、前々平気だったのです。スター選手と一緒に、夏ゴルフは最高だと盛り上がったのでした。

「何よりも、芝生が緑だということが夏ゴルフの一番の魅力だよね。現役選手の時は、茶色いゴルフコースしか知らなかったからさ」

スター選手が嬉しそうに話していたのを、今でも、時々思いだします。

冬派の主張と結論

21世紀になって、温暖化の影響か真夏の日本は、毎年のように暑さの記録を更新しています。

僕は、熱中症で倒れたり、重症化したりして、夏ゴルフの暑さを楽しむことはできなくなってしまいました。それでも、夏ゴルフを楽にする早朝スタートという工夫で、辛うじて夏ゴルフをしています。

夏ゴルフと、冬ゴルフでは、どちらが好きですか? と問われたら、冬ゴルフと答えています。

理由は、冬ゴルフは防寒ウェアや防寒グッズが科学の力で進化したお陰で、あまり寒さを感じることなく、快適にゴルフが出来るからです。夏ゴルフも、色々な防暑グッズがありますが、防寒に比べると、雲泥の差があります。

夏ゴルフは、脱ぐのに限界がありますが、冬ゴルフの着重ねには、ボールの打ちづらささえ我慢すれば、限界はないのです。オシャレという意味でも、冬ゴルフのほうが、ディープだと思います。

とはいっても、スター選手が話していたように、夏ゴルフの一面の緑という圧倒的なカラーの美しさに比べたら、冬ゴルフは白黒の写真ようで、残念であることは事実です。しかし、僕は、セピア色したゴルフコースも大好きなのです。

葉が落ちて、枝だけになった木々が、低い位置に上がる太陽に照らされて、長いストライプの影を伸ばす茶色のフェアウェイでゴルフをすると、冬独特の凜とした空気の中で、ゴルフの輪郭がハッキリ見えてくるような不思議な感触があるのです。

夏ゴルフで、汗だくになっているゴルファーも狂気なら、凍っているコースで防寒機能に自己満足しながらプレーしているゴルファーも狂気です。ゴルフは、簡単に人を狂わせます。

結果として、夏ゴルフも、冬ゴルフも、僕は大好きで、甲乙つけがたい、ということなのです。ゴルフは、そもそも、我慢のゲームです。究めれば極めるほど、もっと強い我慢を求めてしまうのもゴルファー心理で、やせ我慢の美学が理解できなければゴルフは楽しめません。

2020年もあと少しで終わりです。気象庁の長期予報では、今回の冬は例年より寒くなるということでしたが、地球規模の最新の気象データを集めて解析してみると、むしろ暖冬になりそうだという予測が多くなってきているので、近々、今回の冬は暖冬だという長期予報に変更する可能性が高い、という報道を見ました。

例年よりも寒い冬と聞いて、楽しみだ、と公言していましたが、暖冬だと耳にすると、自然とニヤけてしまうのです。昨シーズンも暖冬でしたので、凍った地面にティが刺さらないという冬ゴルフのあるあるを、数回しか経験しませんでした。また、楽ちんな冬ゴルフが出来るのかもしれない…… 期待してしまいます。

まだまだ、修行不足な自分を自覚しながら、冬ゴルフで鍛えたいと思う今日この頃です。

【著者紹介】篠原嗣典

ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。

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