タイガー・ウッズの劇的な復活優勝! その始まりにあったもの
text by Kazuhiro Koyama
配信日時: 2018年9月28日 07時25分
5年ぶりの勝利は、1年間の戦いの集大成だった
PGAツアーの最終戦、ツアー選手権におけるタイガー・ウッズの5年ぶりの復活優勝。その余韻が今もゴルフファンを包んでいる。ゴルフ界はもとより、スポーツの歴史にも残るような劇的な勝利だった。
昨年11月のヒーローワールドチャレンジで復帰したとき、タイガーの世界ランキングは1199位だった。長期に渡ってゴルフ界の絶対王者として君臨したタイガーの面影はそこにはなく、文字通りのどん底だったわけだが、そこからわずか1年弱で再び世界のトップに舞い戻ってきた。
度重なる故障で、2014年以降は満足に試合出場も出来ず、出た試合でも十分なプレーが出来ずにいた。昨年の5月には、自宅近郊の路上で無謀運転で逮捕、警察に拘置されるというショッキングな事件もあった。あのとき、タイガーの復活は最早難しいと感じた人は少なくなかったはずだ。
もしあのとき、タイガーのキャリアが終わっていたとしても、その栄光は燦然と輝いていただろう。メジャー14勝、PGAツアーで79勝。他にも世界中で勝利をあげ、現在のツアーのあり方やプレースタイルすらも変えた、正真正銘のスーパースターだ。
しかし、タイガーは復活した。それはこれまで成し遂げてきたものとは違う、新たな偉業だ。最後に勝利したのはなんと5年前。長いブランクを克服したカリスマの勝利は、あの“キンシャサの奇跡”を思わせる。
タイガーがモハメッド・アリと異なるのは、その勝利が、実に緻密に計画された復活の過程にあったことだ。この一年、タイガーのこれまでのキャリアでは考えられないほど、道具を変え、シャフトやウェイト位置などのセッティングを細かく調整し続け、シーズン当初はややぎこちなく、力感に乏しかったスイングは、日を追うごとに力強く、洗練されていった。
強豪がひしめく現在のPGAツアーでは、タイガーといえど簡単に優勝することは出来ない。タイガーは、世界ランキング1000番台という自分の現在位置を客観的に見つめ、世界のトップに返り咲くための取り組みを段階的に行っていった。
シーズン序盤は、ファンから見るとタイガーらしくないミスも散見したものだが、徐々に調子があがっていったのは誰の目にも明らかだった。メジャーでもマスターズは32位タイ、全米オープンは予選落ちしたものの、全英オープンでは6位タイ、全米プロでは単独2位といずれも最終日に優勝争いした末の上位フィニッシュだった。ほんの少しだけ運命の歯車が噛み合えば、10年ぶりのメジャー優勝もあったと思わせる、実に堂々たる戦いぶりを見せた。
ツアー最終戦での勝利は、不意に訪れたわけではなく、今季のタイガーが戦ってきた、その帰結として生まれたものだった。いわば、それまでの道程がすべて決められていたかのような復活劇をファンは目の当たりにしたのだ。