【記者の目】小兵でずんぐり、F・モリナリの全英制覇に見る【中空アイアン】の有用性と日本人勝者の可能性
【記者の目】小兵でずんぐり、F・モリナリの全英制覇に見る【中空アイアン】の有用性と日本人勝者の可能性
配信日時: 2018年7月23日 04時01分
147回目の全英オープン、カーヌスティの戦いが終わった。5、6番ホールから全く目が離せない大混戦となり、誰が勝つかわからない手に汗握る展開。筆者にとって主役であった松山英樹の不在が残念なものの、タイガーの復活もあり、寝不足を後悔するどころか中継局のテレ朝に感謝しかない朝を迎えた。
優勝したのは、ご存知のとおり、フランチェスコ・モリナリ(イタリア)だ。172センチでずんぐりとした体格は、同組の復活したタイガーのスラリとしたものと対照的。だが、世界中のゴルフファンのアイドル、タイガーにまったく見劣りすることない安定したプレーが印象的だった。
■目を引いたモリナリの4Iの飛距離■
1位のモリナリ(M4)、2位タイのローズ(M3 440)、同マキロイとシャウフェレ(M3 460)と、使用ドライバーではテーラーメイドが圧倒した形。だが、リンクスらしい強風が吹いた最終日に関しては、モリナリ、タイガーは数回しかドライバーを使っていない。攻めのゴルフを公言したマキロイも同様だ。全英オープンらしく、キークラブはやはりロングアイアンだった。
35歳のモリナリは、近年飛距離アップに成功しているとはいえ、平均ヘッドスピードは50.39m/s、ツアーでは117位だ。対するタイガーは53.98m/sでツアー15位。ところが、この日の2人のロングアイアンから放たれるティショットの飛距離差はモリナリが上回る回数が多いことが気になった。
モリナリの4Iはテーラーメイド『P790』。ロフトに変化を加えていなければ、海外モデルは21°のはず。対してタイガーの『TW Phase1』の3Iは、ロフトの発表はないものの、コンベンショナルなクラブを好むタイガーのこと。おそらく21°か22°で、モリナリの4Iとさして変わらないだろう。
最終組のジョーダン・スピースとザンダー・シャウフェレが苦しんだ5、6、7番ホールで、モリナリとタイガーは難なく通過。前半を折り返し、タイガーは7アンダーで首位に立っていた。ところが、11、12番でタイガーのティショットが左ラフにつかまる。対して、モリナリのはフェアウェイ。ここで明暗を分けたように思う。
結果論で語れば、アイアンなのに強振しだして見えたタイガーに微細なインパクトのブレが生じたのに対し、モリナリは通常通りだったように見えた。そして、中空でサイズの大きな寛容性の高い『P790』が、小兵でヘッドスピードの遅いモリナリに恩恵をもたらし続けたとも思える。
微細なインパクトのズレを現代のクラブはカバーしてくれるのでは?と、思いながら、タイガーのティショットのブレを悔しい思いで見つめるしかなかった…。もちろん、結果論だが。
■黒い謎の新投入モデル『ギャッパー』は?■
全英オープンでロングアイアン及び、アイアン型UTがキークラブとなるのは周知のこと。テーラーメイドはこの試合で新作と思しき黒い『ギャッパー』をツアーロウンチさせていた。松山英樹、タイガーほか、多くのプロたちがこれをバッグに入れたが、いきなりの投入で結果を出すには少々時間が短すぎたのだと思う。
タイガーは連日このクラブのアイアン型『GAPR Lo』(17°)を18番のティショットで使用。3日目は左のクリークに入りかけるなど、アジャストしているとは思い難かった。ツアーで一番ロフトの寝たコンベンショナルアイアンを好む男だけに、現代の利器とのつながりが他のプロよりも難しいのか。
■ロングアイアンの名手? 小兵・モリナリの強み■
対するモリナリは、普段から『P790』の4Iを使い慣れているため、『ギャッパー』の必要性を感じなかったのか。今季は直近で「BMW PGA選手権」、「クイッケンローンズナショナル」で勝利し、それ意外でも2位が2回と、絶好調そのままの“通常運転”を選んだ。
そして、その4IやUTの上手さはPGAツアーのスタッツにも見て取れる。フェアウェイから225〜250ヤードの方向性ランクで2位。(タイガーは14位)ラフからの同距離で8位(タイガーは117位)。200ヤード以上からのパーオン確率が56.52%の10位と、ロングアイアン巧者だと言えるだろう。ここには“欧州出身者らしさ”が現れているのかもしれない。
■強風、固い地面に強い欧州ツアー勢■
上記のフェアウェイからの225〜250ヤードの方向性で、上位に位置していたのはモリナリ同じ35歳の全英オープン覇者、ルイ・ウーストハウゼンだった。(225〜250ヤードで1位、200〜225ヤードで4位)ウーストハウゼンは178cmだが、ずんぐりした体型でメジャーに強い印象がある。
やはり、強風化で影響を受けないために、球の高低を操り、曲げない技術を持つのは欧州出身者らしいと言えるのかもしれない。ウーストハウゼンは画面に映ることは無かったが、代わりに筆者が注目し、応援していたのがザンダー・シャウフェレだった。
こちらは去年のルーキー・オブ・ザ・イヤーのアメリカの若き期待の星。太い太腿で、ずんぐりした体型、表情を変えずに耐えるプレーに強そうなイメージ。筆者は勝手に全英オープン向きだと判断していた。そして、ザンダーに日本人の姿を重ね合わせて勝手に応援していた。
■祖父母が日本で暮らし、母が日本語堪能なザンダー■
ザンダー・シャウフェレ。テレ朝ではショーフリーと呼び、そのつづりから正確な呼び名が安定しないが、米国ではシャフリーと呼ばれるのが一般的。台湾出身で日本育ちの母を持ち、祖父母は日本で暮らすものの、本人の国籍は米国。キャロウェイ契約だがモリナリと同じ『P750ツアー』アイアンを使用している。
深めに被ったキャップから、その表情はなかなか読み取りづらい。一喜一憂せず、静かな闘志を燃やす24歳は、その日本との縁とアジア人に近い体型から、【仮想・アジア人全英オープン覇者】の誕生を筆者は夢見て応援していた。
結果は及ばず2位タイに終わったものの、何度もカップの手前で止まったイーグルパットが入っていたら…。タラレバは禁物だが、クラレットジャグに手が届きかけた若者の未来に、日本人、アジア人の全英オープン制覇の希望を見た。小兵のモリナリの勝利と、宮里優作、小平智、川村昌弘、池田勇太の奮闘。アジア人による“その日”は確実に近づきつつあると感じたのは筆者だけだろうか。
Text/Mikiro Nagaoka
優勝したのは、ご存知のとおり、フランチェスコ・モリナリ(イタリア)だ。172センチでずんぐりとした体格は、同組の復活したタイガーのスラリとしたものと対照的。だが、世界中のゴルフファンのアイドル、タイガーにまったく見劣りすることない安定したプレーが印象的だった。
■目を引いたモリナリの4Iの飛距離■
1位のモリナリ(M4)、2位タイのローズ(M3 440)、同マキロイとシャウフェレ(M3 460)と、使用ドライバーではテーラーメイドが圧倒した形。だが、リンクスらしい強風が吹いた最終日に関しては、モリナリ、タイガーは数回しかドライバーを使っていない。攻めのゴルフを公言したマキロイも同様だ。全英オープンらしく、キークラブはやはりロングアイアンだった。
35歳のモリナリは、近年飛距離アップに成功しているとはいえ、平均ヘッドスピードは50.39m/s、ツアーでは117位だ。対するタイガーは53.98m/sでツアー15位。ところが、この日の2人のロングアイアンから放たれるティショットの飛距離差はモリナリが上回る回数が多いことが気になった。
モリナリの4Iはテーラーメイド『P790』。ロフトに変化を加えていなければ、海外モデルは21°のはず。対してタイガーの『TW Phase1』の3Iは、ロフトの発表はないものの、コンベンショナルなクラブを好むタイガーのこと。おそらく21°か22°で、モリナリの4Iとさして変わらないだろう。
最終組のジョーダン・スピースとザンダー・シャウフェレが苦しんだ5、6、7番ホールで、モリナリとタイガーは難なく通過。前半を折り返し、タイガーは7アンダーで首位に立っていた。ところが、11、12番でタイガーのティショットが左ラフにつかまる。対して、モリナリのはフェアウェイ。ここで明暗を分けたように思う。
結果論で語れば、アイアンなのに強振しだして見えたタイガーに微細なインパクトのブレが生じたのに対し、モリナリは通常通りだったように見えた。そして、中空でサイズの大きな寛容性の高い『P790』が、小兵でヘッドスピードの遅いモリナリに恩恵をもたらし続けたとも思える。
微細なインパクトのズレを現代のクラブはカバーしてくれるのでは?と、思いながら、タイガーのティショットのブレを悔しい思いで見つめるしかなかった…。もちろん、結果論だが。
■黒い謎の新投入モデル『ギャッパー』は?■
全英オープンでロングアイアン及び、アイアン型UTがキークラブとなるのは周知のこと。テーラーメイドはこの試合で新作と思しき黒い『ギャッパー』をツアーロウンチさせていた。松山英樹、タイガーほか、多くのプロたちがこれをバッグに入れたが、いきなりの投入で結果を出すには少々時間が短すぎたのだと思う。
タイガーは連日このクラブのアイアン型『GAPR Lo』(17°)を18番のティショットで使用。3日目は左のクリークに入りかけるなど、アジャストしているとは思い難かった。ツアーで一番ロフトの寝たコンベンショナルアイアンを好む男だけに、現代の利器とのつながりが他のプロよりも難しいのか。
■ロングアイアンの名手? 小兵・モリナリの強み■
対するモリナリは、普段から『P790』の4Iを使い慣れているため、『ギャッパー』の必要性を感じなかったのか。今季は直近で「BMW PGA選手権」、「クイッケンローンズナショナル」で勝利し、それ意外でも2位が2回と、絶好調そのままの“通常運転”を選んだ。
そして、その4IやUTの上手さはPGAツアーのスタッツにも見て取れる。フェアウェイから225〜250ヤードの方向性ランクで2位。(タイガーは14位)ラフからの同距離で8位(タイガーは117位)。200ヤード以上からのパーオン確率が56.52%の10位と、ロングアイアン巧者だと言えるだろう。ここには“欧州出身者らしさ”が現れているのかもしれない。
■強風、固い地面に強い欧州ツアー勢■
上記のフェアウェイからの225〜250ヤードの方向性で、上位に位置していたのはモリナリ同じ35歳の全英オープン覇者、ルイ・ウーストハウゼンだった。(225〜250ヤードで1位、200〜225ヤードで4位)ウーストハウゼンは178cmだが、ずんぐりした体型でメジャーに強い印象がある。
やはり、強風化で影響を受けないために、球の高低を操り、曲げない技術を持つのは欧州出身者らしいと言えるのかもしれない。ウーストハウゼンは画面に映ることは無かったが、代わりに筆者が注目し、応援していたのがザンダー・シャウフェレだった。
こちらは去年のルーキー・オブ・ザ・イヤーのアメリカの若き期待の星。太い太腿で、ずんぐりした体型、表情を変えずに耐えるプレーに強そうなイメージ。筆者は勝手に全英オープン向きだと判断していた。そして、ザンダーに日本人の姿を重ね合わせて勝手に応援していた。
■祖父母が日本で暮らし、母が日本語堪能なザンダー■
ザンダー・シャウフェレ。テレ朝ではショーフリーと呼び、そのつづりから正確な呼び名が安定しないが、米国ではシャフリーと呼ばれるのが一般的。台湾出身で日本育ちの母を持ち、祖父母は日本で暮らすものの、本人の国籍は米国。キャロウェイ契約だがモリナリと同じ『P750ツアー』アイアンを使用している。
深めに被ったキャップから、その表情はなかなか読み取りづらい。一喜一憂せず、静かな闘志を燃やす24歳は、その日本との縁とアジア人に近い体型から、【仮想・アジア人全英オープン覇者】の誕生を筆者は夢見て応援していた。
結果は及ばず2位タイに終わったものの、何度もカップの手前で止まったイーグルパットが入っていたら…。タラレバは禁物だが、クラレットジャグに手が届きかけた若者の未来に、日本人、アジア人の全英オープン制覇の希望を見た。小兵のモリナリの勝利と、宮里優作、小平智、川村昌弘、池田勇太の奮闘。アジア人による“その日”は確実に近づきつつあると感じたのは筆者だけだろうか。
Text/Mikiro Nagaoka