実録‐‐ヤマハゴルフ、大型契約の裏にあったもの
2017年、ヤマハゴルフが大きく動いた。 藤田寛之、谷口徹、野村敏京、大江香織という既存の契約プロに加え、大山志保、有村智恵、今平周吾、ユン・チェヨンらを獲得。 近年にない大型移籍の裏には何があったのか。 当時、ゴルフHS事業推進部マーケティンググループ グループリーダーだった吉田信樹の証言。
配信日時: 2017年2月27日 11時00分
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実録‐‐ヤマハゴルフ、大型契約の裏にあったもの
2015年から水面下で進められた女子プロゴルファー戦略
ポケットの中でスマートフォンが着信を告げた。そのバイブレーションとほぼ同時に、吉田信樹にも武者震いが起きた。すかさずディスプレーに目を落とすと、予感通り待ち人の名前が表示された。気持ちの高ぶりを抑えるように、しかし足早にデッキへと足を運んだ。
「ゴルフ界におけるヤマハゴルフは、一般ユーザーからどのように見られていると思われますか?」
「藤田寛之ですか?」
「そうです。私が着任後に行ったブランドイメージでは、ヤマハゴルフのみならずinpres、RMXという2大ブランドにおいても、ダントツのワードは藤田プロでした」
1992年に契約を結んだヤマハゴルフと藤田は、ともに成長過程を歩んだ蜜月の関係だ。特に、クラブ事業後発のヤマハゴルフにしてみれば、藤田の存在抜きで今の飛躍はなかったといっても過言ではない。吉田によれば、嫌われない限りの永久契約ぐらいに考えている。
一方で事業の将来性を考えると、ヤマハゴルフ=藤田の方程式を見直す時期に差し掛かっていたのも事実だった。
「ヤマハゴルフ、そしてinpresとRMXという2大ブランドをゴルファーに認知し(ブランドバリュー)、好きになってもらう(ロイヤリティー)。最後は購買へとつながるわけですが、男子は藤田プロ、そして谷口徹プロという2枚看板を抱えながら、隆盛を誇る女子プロゴルフ界においての弱さがあった。そこで、2015年4月から女子プロゴルファー戦略に動き出しました」
デッキに着いた吉田は、自らを落ち着かせるように「フゥッ」と息を吐き、もう一度ディスプレーに目をやった。元賞金女王で日本女子ツアー通算17勝を誇る大山志保(39歳)のマネジメント会社からだった。電話の主は吉田にこう告げた。
「契約の件、進めさせてください」
席に戻った吉田は、同行していた上司に右手を差し出した。上司もすぐに察し、固い握手が交わされた。